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高松高等裁判所 昭和39年(ラ)30号 決定

抗告人 伊予相互金融株式会社

右代表者代表取締役 加藤弘

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、「原決定を取消す」との裁判を求め、抗告理由は、別紙記載のとおりである。

本件記録および添付の松山地方裁判所西条支部昭和三九年(ルヲ)第一〇七、一一七号債権差押、取立命令事件記録によれば、抗告人は、債務者原秀臣に対する新居浜簡易裁判所昭和三九年(ロ)第八八号支払命令申請事件の仮執行宣言附支払命令にもとづき、債権額金六、〇三八円につき、右債務者が第三債務者住友化学工業株式会社から受くべき給料その他の諸手当、賞与金の各四分の一の金額および退職金の二分の一の金額を右債権額に満つるまで差押えかつ取立てる命令を申請したところ、松山地方裁判所西条支部は、給料その他の諸手当、賞与金についてのみその申請を許容し、退職金については差押、取立命令を発しなかったこと、そこで抗告人は同裁判所に執行方法の異議を申立て、右退職金についても差押、取立命令を発すべきことを求めたが却下されたこと、が認められる。

そして抗告人が当審において提出した資料によれば、債務者は第三債務者住友化学工業株式会社に昭和二三年より勤務し、勤続年数一六年余に及び、将来退職した場合には、同会社と住友化学労働組合との間に結ばれた労働協約にもとづいて所定の退職手当を受ける権利があることが認められる。しかし債務者の退職の時期については、抗告人提出の高橋ミサオ作成名義の報告書は、その作成者が抗告人の従業員であること及びその記載内容からみてたやすく信用しがたく、その他に債務者がごく近い時期に退職するであろうことを認めうる資料はない。

しかも抗告人の債権額は、前記のように金六、〇三八円に過ぎないところ、住友化学工業株式会社新居浜製造所人事課員作成の書面によれば、本件差押並びに取立命令によって、抗告人は債務者が第三債務者から受けるべき給与のうち昭和三九年六月分から毎月金九七〇円を取立てていることが窺われ、このまま推移すれば、昭和三九年末頃には前記債権が完済される筈である。

このように債務者の退職の時期が不確かであり、而も執行債権額からみて退職金債権差押の必要性が乏しい場合には将来発生する退職金債権を差押えることは許されないと解するのが相当である。

したがって退職金債権の差押を認めず、これに対する抗告人の異議申立を却下した原裁判所の措置は相当であって、本件抗告は理由がない。よって抗告費用の負担について、民事訴訟法第九五条、第八九条を準用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 浮田茂男 裁判官 水上東作 石井玄)

〈以下省略〉

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